2010年3月1日月曜日

ラーメン連作ABC,,,

*A*
モジャモジャの髪に鬼カサゴの様な顔をしたオヤジが作るそのスープはその容姿と裏腹に薄い琥珀色に透きとおり、顔を近づける間もなくプンと柚子の香りが鼻腔を抜けた。騒々しい駅のロータリーから幅一メートルにも満たない路地裏にある店のラーメンはスープをすすると丁寧に抽出したであろう品の良い鶏出汁の中に縮れた細麺がゆったりとした間隔でたゆり、その割にぞんざいな具だったのかほぼスープと麺だけの具無し仕様だったのかは忘れてしまったが、なにしろ二日酔いの怠惰な午後にはうってつけのラーメンだった。業務用品で乱雑としたカウンターに座りけたましく響くお昼のワイドショーを右から左へ流しながらまだ半分以上アルコールに浸かった脳はひたすら弱った胃腸に優しく流し込める食べ物を指示し続ける。切れ切れの記憶を頼りに昨夜の行動を反芻しては麺をすすりスープを味わうという惰性の繰り返しを進めるうちに、昨夜酒の勢いでやってしまった恥ずかしい言動への後悔の念も薄れてゆくのだった。

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